近年、心のトラブルを抱える人が増えています。うつやパニック障害、統合失調症などで心療内科を受診する人の中に、明らかに栄養不足が原因の人がいます。栄養不足を改善すると、それまで何種類も服用していた睡眠薬やうつの薬を減らすことができるようになります。うつが改善して薬が全く必要なくなってしまうこともあります。
栄養不足のパターンをおおまかに分類すると以下のようなタイプに分けられます。
- 1.低血糖症(糖質過多が原因)
- 2.ビタミンB群・鉄分・たんぱく質不足
- 3.腸粘膜が弱っている
1.低血糖症
低血糖症とは、血糖値が安定しないことが原因で体調不良になる病態です。
単に血糖値が低いことが問題ではなく、血糖値の下がり方やその後のあがり方のパターンが通常とは異なる場合を低血糖症と呼びます。糖尿病で血糖値を下げる薬を飲んでいる人が、薬の作用で急に血糖値が下がってしまい、頭痛、動悸、ふるえ、冷や汗、めまいなどの症状が出る事を低血糖発作と呼びますが、ここで説明する低血糖症は糖尿病による低血糖発作についてではありません。
糖質は、脂質、たんぱく質と並んで三大栄養素と呼ばれています。その理由は、体内のエネルギーになる物質だからです。心臓を動かす。呼吸をする。筋肉を動かすなど、生命を維持するにはエネルギーが必要です。そのため、体内のエネルギーをいつも一定にしておくこと、つまり血糖値を高すぎず低すぎず一定に保つことは生きていく上でとても大切なのです。
ごはんを食べると、誰でも血糖値が上がります。でも、体には血糖値を一定に保とうとする働きがあるので、血糖値を下げる物質を出して、血糖値を調整します。それが、インスリンというホルモンです。
通常、食事をすると食後1時間〜1時間半で血糖値がゆっくり上がり、インスリンの働きによって、食後3〜4時間で空腹時の血糖値へと徐々に下がっていきます。
ところが糖質の多いものを沢山食べると血糖値は一気に急上昇してしまいます。体は慌てて血糖値をさげようとしますので、インスリンを大量に放出します。すると、今度はインスリンを出しすぎてしまったために血糖値が一気に下がりすぎてしまいます。お話したとおり、血糖値が低いということは生命の危機です。そのため、頭痛、動悸、ふるえ、冷や汗、めまいなどの症状が現れます。これが低血糖症状です。体は再び血糖値を上げるためのホルモンを出して、心拍、血圧を上げ、再び血糖値を上昇させます。そのときに使われるホルモンが、アドレナリンやノルアドレナリンです。アドレナリンやノルアドレナリンは、自然界の生物が捕食者から逃げるときや闘争のときなど、生命の危機を感じたときに分泌されます。そのため、恐れ、怒り、不安、焦燥感、筋肉のこわばり、思考の停止などが起こるのです。
毎日のように甘いお菓子や清涼飲料水、白米をとっていると、血糖値が急上昇と急降下を繰り返し、そのうちに血糖値の調節がうまくいかなくなります。その結果、うつやパニック障害のように感情が不安定になってしまいます。コーヒーや緑茶、栄養ドリンクなどカフェインの多い飲み物をよく飲む人も、アドレナリンの分泌が増えてしまいますので、コーヒーを飲む人はカフェインレスコーヒーに、緑茶を飲む人はほうじ茶か麦茶に変えるとよいでしょう。
2.ビタミンB群・鉄分・たんぱく質不足
うつの人には「セロトニン」という物質が不足しています。セロトニンという言葉をテレビなどで聞いた事がありますか?一体セロトニンとはどんな物質なのでしょうか。
脳には感情などを伝える神経の細胞があり、その細胞同士は神経伝達物質を通して信号のやりとりをしています。セロトニンは神経伝達物質の一種で、神経伝達物質には他にドーパミン、ノルアドレナリンなどがあります。ドーパミンは興奮、快楽などの感情を、ノルアドレナリンは興奮、攻撃、不安などの感情を支配しています。セロトニンにはそれを抑える働きがあります。セロトニンの原料は必須アミノ酸のトリプトファンです。トリプトファンが脳内で鉄、ナイアシン、葉酸、ビタミンB6などの栄養素とともにセロトニンを合成します。つまり、これらの栄養素が不足しているとセロトニンを作ることができないため、うつ状態になるのです。
さらにセロトニンからはメラトニンというホルモンが作られます。メラトニンは睡眠をコントロールするホルモンです。セロトニンが足りないとメラトニンは合成できないため、うつの人は不眠症を伴う事が多いのです。セロトニンがメラトニンを合成するにはマグネシウムが必要です。
3.腸粘膜が弱っている
口から入った食物は、胃で胃酸や消化酵素によって分解されると小腸へ運ばれます。
そこでさらに消化酵素で分解され、小さい分子の栄養素として小腸粘膜から吸収されます。
ところが、小腸の粘膜がもろいと栄養素の吸収が障害されるため脳のトラブルが起こります。小腸粘膜のもろさは次のような原因によっておこります。
(1)栄養不足
(2)腸内細菌のバランスが崩れている
(1)栄養不足
小腸の粘膜は代謝が早く、2〜3日ごとに新しい粘膜に生まれ変わります。そのため、小腸にがんの芽などができても多くは悪くなる前に粘膜ごと剥がれ落ちてしまいます。胃がん検診や大腸がん検診があるのに小腸がん検診がないのは、小腸粘膜の代謝が早いということも理由のひとつです。
栄養が不足していると、新しい粘膜があり合わせの材料で作られるため、弱くてすきまだらけになってしまいます。粘膜が丈夫で密になっていれば糖分がゆっくり吸収されますが、スカスカだとすみやかに吸収されてしまうため血糖値が急上昇してしまいます。すると、インスリンが大量に分泌され低血糖症になってしまうのです。
小腸の粘膜を丈夫にするには、鉄、亜鉛、ビタミンA、たんぱく質を十分にとる必要があります。
(2)腸内細菌のバランスが崩れている
腸内には100兆個もの腸内細菌が棲んでいます。
腸内細菌にはビフィズス菌やアシドフィルス菌などの善玉菌と、ウェルシュ菌などの悪玉菌、また、腸内環境が悪くなると悪玉菌に変化する日和見菌(ひよりみきん)がいます。
日和見菌は、健康なときには悪さをしませんが、抗生物質やステロイド剤の服用で善玉菌が死んでしまったり、体調を崩して悪玉菌が優勢になると悪さをする菌で、日和見菌のひとつにカンジダがあります。
カンジダに感染すると、腸の粘膜が破壊されてスカスカになるため糖分がすみやかに吸収されやすい状態になってしまいます。さらにカンジダは糖分をエサにして繁殖するため、ますます腸の粘膜が弱くなるという悪循環に陥ってしまうのです。
腸内細菌のバランスを整えるには、まずカンジダの繁殖を防ぐために糖分を控えること、善玉菌を増やすために乳酸菌を摂取すること、そして悪玉菌が優勢にならないように食物繊維をとって便通を良くすることが大切です。乳酸菌はヨーグルトの他に、ぬか漬け、キムチ、みそなどの発酵食品に含まれています。また、オリゴ糖は乳酸菌のエサになりますがカンジダのエサにはなりませんので、発酵食品と一緒にとると善玉菌が増え、便通も良くなります。
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